港南台こまどり団地、再生の物語
2025年12月17日

港南台こまどり団地、再生の物語
JR京浜東北線・根岸線港南台駅から徒歩で8分。かつて「ニュータウン」と呼ばれた街の一角にある「こまどり団地」。高齢化と建物の老朽化が進むなか、住民と事業者が長年にわたり対話を重ね、悩みながらも互いに手を取り合い、団地再生に取り組みました。ゆるぎない信頼関係のもと、再び未来につながる街づくりに挑戦した団地の物語です。


設計に大きな制約のある敷地で2013年から建替え検討がスタート

1960年〜70年代に開発された「港南台ニュータウン」は、約4000戸の団地が集まる団地の街。その一角にある「こまどり団地」は、1978年に建てられた3棟60戸の建物。しっかりとした自主管理のもと、住民同士のコミュニケーションが良好な団地でした。築35年を迎えた2013年、住民による建替組合が発足して検討が始まり、2018年に三菱地所レジデンスが参画、2025年3月に「ザ・パークハウス 横浜港南台」が竣工しました。
60世帯の住民のなかには、すでに自身でリフォームを済ませている人、リノベーション済み物件を購入したため、すぐに建替えることをあまり考えていなかった人などもいて、建替えに対する意見もさまざま。加えて隣の団地と「一団地認定」(複数の敷地をまとめて一つの敷地と見なし、建築基準法の制限を緩和する制度)されているため設計に制約があり、高さ制限もありました。
建替組合の並走者として選ばれたのが、三菱地所レジデンスの建替事業企画部でした。何度も説明会や個別面談を繰り返し、当初は反対されていた方も建替えを前向きにとらえてくださり、最終的には皆様にご納得いただくことができました。
素直に聞き、自分の言葉で話す。 透明性の高い相互コミュニケーション
建替事業企画部 企画第二グループ の荒井勇輝は、2021年の入社後、本プロジェクトを担当。今年で4年目になります。
「この団地は建設当初から住み続けている方も多く、住民の皆様同士も非常に仲良しで、大きな家族のように暮らしていらっしゃいます。私自身も家族の一員となるべく、常に素直であること、自分の言葉で話すことを心がけています。
前任担当者の頃から一貫しているのは、一方的に発信するだけでなく、個別相談会や説明会を通じて皆様のご意見を素直にお伺いし、お一人ずつと相互のコミュニケーションを取るということです。また、メリットだけでなくデメリットについても、正確に、率直にお話しします。
私が着任後のことで申し上げれば、やはり昨今の工事費高騰が大きな課題でした。現状がどのようになっているのか、それに対してどんな工夫ができるのかなどをご説明し、ご意見を伺って、一緒に乗り越えることができたと思っております。
2018年の建替え検討初期における事業者決定の時点でも、こうした姿勢を評価し、当部を選んでいただいたと聞いています。対話を尽くし、挑戦し続けるという基本姿勢を通じて、地権者の皆様とともに“新たな港南台での暮らし”を作り上げることを目指す。これは、完成・入居後の現在も変わりありません」
建替えには、経済的な負担に加え、2度の引っ越しという高いハードルもあります。
「費用負担は、最も関心の高い事項です。建替え後のお部屋を取得する際、追加負担が発生する方もいらっしゃいましたが、その住宅費用の融資についてはどのような公的サポートがあるかなど、個別にご相談させていただきました。建替えの場合、引っ越し費用や仮住まいの際の家賃なども自己負担となります。その点もしっかりご説明しました。
とくに高齢の方には、愛着のある住まいから仮住まい、さらに新たなマンションへと、環境が大きく変化します。説明会でも新生活に関する不安や疑問の声が多くあがりました。書面やメールなどでの通達のみでは相互の認識違いが発生するおそれがあったため、コロナ禍にあっても、細心の注意を払い、可能な限り対面でのご説明を徹底しました。
そこでは“ザ・パークハウスシリーズ”で標準採用されている管理規約や電気供給サービス、インターネットサービスなどについて、それぞれの採用理由や利点についての質問を多くいただきました。これは自主管理の団地ならではのことで、“標準仕様でこうなっています”では済まされず、自分の言葉でご説明できるよう猛勉強しました。
また、細かいことですが、モデルルーム案内会や新築マンション内覧会の際、当社のインターネット予約システムをご案内するだけでなく、システムの操作に不安があるご高齢の方などに対しては電話や書面での申し込みを受け付けるなど、少しでも多くの方のご希望に添えるような対応を心がけました」

敷地の制限や制約を魅力に転換した設計

隣接団地の全件同意が必要となる「一団地認定」や高圧線が建物上を通じているという事情による「高さ制限」など、このプロジェクトでは設計面で乗り越えるべき課題も多くありました。
「行政との緻密な協議により、消化容積率を最大化させ、既存の擁壁を切り崩して道を作るなどの不要な開発は行わないなど、より効率的な設計を目指しました。変更にはかなりの量の書類手続きが必要になりましたが、“建てること”ではなく、“そこでどう暮らすか”を考えて事業を推進してまいりました。また、床下収納を設けることで、1階であることの付加価値を生み出すなど、制限がある中でも、居住性の最大化を最後まで探求し続けました」
“建替え”は、ライフステージに合わせた“住み替え”のきっかけにも
この事業では、地権者のうちの78%という高い再入居率が実現しました。
「港南台に対する愛着が最大の要因かと思いますが、新築マンションによる“新たな建物の提供”ではなく、旧団地の生活利便性やコミュニティを継承した“建物の再生”を目指したことが、再入居につながったのではないかと思います。
お子様が独立されたことから新築ではコンパクトな面積を選ばれた方や、逆に、複数世代同居のため広いところを選ばれた方もいらっしゃいました。建替えをきっかけに、ライフステージに合わせた住み替えが可能になるのだと改めて実感しました。新規購入の方も含め、若い方々やお子様が入居されて世代間の循環が実現し、管理組合の運営や街の雰囲気が活性化したのではないかと思います。
また、敷地内通路沿いに設置したコミュニティスペースは、住民の皆様の憩いの場だけでなく、地域の方々とも交流できる空間です。この街には「こまどり団地」と同様に、築40年を超える団地がまだ数多くあるため、再生の道の一つとして周辺団地の方々にも参考にしていただけるような、港南台という街全体の再生へとつながるモデルケースになればと思っています。
今でも建替組合の理事会などで月に1回は伺っているので、皆様にお会いし、新生活を送られている様子を拝見するのをとても楽しみにしています。ある地権者様からいただいた“長い年月をかけてやっとこのマンションに住むことができたから、少しでも長くここで暮らせるように長生きするよ”という言葉を、入社以来の一番嬉しかった言葉として、胸に刻んでいます」

- ※取材時の情報をもとに記載しています。所属部署・役職等、現在と異なる場合があります。



