中古マンションの省エネ革命――”見えない価値“を、”見える化“する
2025年12月17日

中古マンションの省エネ革命――”見えない価値“を、”見える化“する
共用部分には変更が加えられない中古マンションは、省エネ性能の向上が難しいーー。そんな常識をくつがえす挑戦が、静かに始まっています。三菱地所レジデンスは、新築分譲マンション事業で培ったノウハウを活かし、中古マンションの省エネ化という、業界においても未開拓の分野に踏み込み、リノベーションと同時に中古マンションの可能性を大きく広げる取り組みを行っています。


増える中古マンションと進む住宅の省エネ化

経済産業省によると(※1)、首都圏において2016年、それまでは常に上回っていた新築分譲マンションの売却戸数を、中古マンションの成約件数が追い抜きました。この動向は現在も続いています。マンションのストック総数は、2024年時点で全国で約713万戸(※2)。マンション市場における中古マンションの存在は、ますます大きくなっていきそうです。
一方、新築マンションにおける省エネ化に注目が集まり、政府はネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの略であるZEH(ゼッチ)の普及を推進。ZEHとは、“省エネ”と、太陽光発電などの“創エネ”、そして断熱製造の向上により、年間の一次エネルギーの消費量収支をゼロ以下にすることを目指した住宅を指します。2030年には、新築マンションを含むすべての新築住宅でZEH水準の省エネ性能の確保が義務化される予定です。
中古マンション市場の活性化と、マンションを含む住宅の省エネ化の推進。住宅選びにおける重要な2つの動向には、実は接点がありませんでした。でもそれは、2022年、リノベーション事業二部 開発第三グループ 加藤智里が、社内の廊下で新築マンションのZEH推進担当者とばったり会い、会話を交わすまでのこと。その時、この2つの要素の接点が見出されたのです。
- ※1経済産業省「マンション分譲(首都圏)とマンション売買仲介」より
- ※2国土交通省「分譲マンションストック数の推移」より
何気ない会話から始まったリノベーション物件の省エネ化
加藤が所属するのは、新築分譲マンション「ザ・パークハウス」を手掛けてきたデベロッパーのノウハウを活用し、良質なマンションストックを活用した中古リノベーションマンション「リノレジ」を推進する部門。ある日、社内で旧知の新築マンションのZEHを推進する担当者と立ち話を交わしました。
「その時の何気ない会話のなかで、彼女がふと、“省エネって、実はリノベーションでももしかしたらできるかもしれないんだよね”ともらしたのです。そのひとことからすべてがスタートしました。
マンションのリノベーションでは、窓やサッシ、玄関ドア、バルコニーなどの共用部分に変更を加えることができない、ということは広く知られています。そのため、“省エネ化”とは結びつかないと考えられてきました。その既成概念に立ち向かい、新築時の竣工図をはじめとする膨大な資料を読み解き、いくつもの物件のシミュレーションを行いました。すると、工事面では思っていた以上に簡単にできることがあるとわかったのです。たとえば水栓を一つ替えるだけでも、省エネ化に貢献することができます。また、もともとリノベーションの際には新築仕様に準じた設備を導入しているため、細かく計算することで、ZEH水準・省エネ基準を達成していたということもあります」

リノベーションでも可能な省エネ設備や機能を洗い出し、いくつかの物件で試してみることに。
「共用部に触れなくとも、できることが数多くありました。大きく分けて、設備の高効率化と、開口部の断熱性能を上げることです。これらにより、中古マンションのリノベーションでも、ZEH水準・省エネ基準を達成することができました。
新築であれば当たり前のことなのですが、リノベーションでは、ほとんど検討されることがありませんでした。しかも、自社物件であれば新築時の図面や技術面での資料がきちんと保管されていることも多いので、設計や施工に関しても、難しいことはありません。
では、なぜ誰もやってこなかったのかというと、地味な分野であるということもありますが、大きな理由は、“省エネ”が目に見えないものだからなのではないかと思います。省エネ設備は、そうでない設備に比べて少し割高です。リノベーション物件を求める人々の予算においては、一般的に、省エネよりもフローリングや壁紙、キッチンをはじめとする住宅設備のグレードなど、“目に見える価値”が重視されることが多いのが現状です」

伝えることの、難しさ。省エネの“見える化”が今後の課題に

中古マンションのリノベーション物件で、目に見えない“省エネ”の良さをアピールすることの難しさが浮上しました。これを“見える化”するのが、今後の課題です。
「省エネを“見える化”するために始めたことが2つあります。
1点目は、第三者評価の取得です。建築物の省エネルギー性能を評価・表示する“BELS評価”を取得し、ラベル表示しています。
2点目は、“省エネルギー性能報告書”の作成です。現在、ZEH水準・省エネ基準を達成している物件の購入には、住宅ローンの借入額・控除額に対する優遇措置が取られています。
住宅ローン控除額をわかりやすく解説した資料を作成し、控除のメリットを最大限活用できるようなサポートも行っています。住宅ローンの優遇措置のような国の後押しは、お客様にとって大きな魅力となります。加えて、省エネルギー性能報告書があることにより、資産価値という視点でも、再販売される際の高評価につながるのではないかと考えています」
“未来の当たり前”を自分たちの手で作るということ
この取り組みは、2025年度グッドデザイン賞を受賞しました。このことからも、少しずつ周知が広がっていきそうです。
「マンションリノベーションにおいて、理想の空間を実現することに比べると、“省エネ化”はまだまだ地味な存在ですが、将来的にはこの効果が広まり、新築住宅のように当たり前になる、と考えています。そもそも、リノベーション自体が、資源の省エネ化に貢献することでもあります。
“リノレジ”のキャッチコピーである“つくった街の、未来もつくる”の“未来”には、“省エネ化”が含まれています。未来の当たり前を自分たちでつくっているのだと考えると、ワクワクしますね」
- ※取材時の情報をもとに記載しています。所属部署・役職等、現在と異なる場合があります。



